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蛍光とりん光
物質(分子)が光を吸収して光のエネルギーだけの余分のエネルギーをもった状態(励起状態)になった後のプロセスとして、実験 I では光化学反応について説明しました。ここでは励起状態になった分子が示す発光現象(蛍光と燐光)について説明しましょう。

◯蛍光
下図の ヤブロンスキー図に示したように励起一重項状態から基底状態(一重項状態)への発光を蛍光といいます。S0状態やS1状態にいくつかある線(エネルギーレベル)は分子の振動レベルを表しています。通常、分子は複数個の原子からできていますので、原子と原子の間の結合距離が振動することによる振動エネルギーをもっています。 それがS0状態やS1状態にあるいくつものエネルギーレベルの線として表されてます。
芳香族化合物などの光の吸収は通常S0状態の一番低い振動レベルからS1やS2状態の振動エネルギーを もった状態(S1状態などの一番低い振動エネルギーレベルより高いエネルギーレベル)へも起こります。一方、蛍光はS1状態の一番低い振動エネルギーレベルからS0状態の振動エネルギーをもった エネルギーレベルへも起こります。したがって、下図のヤブロンスキー図からわかるように光吸収と蛍光のエネルギーの大きさ(図の線の長さに対応します)は光吸収の方が大きくなります。このことから、一般に吸収よりも蛍光は光の波長が長くなります。りん光を出す三重項状態は励起一重項状態よりもエネルギーの低い状態ですので、りん光は蛍光よりも、さらに波長が長くなります。

   
          

では、実際に実験してみましょう。

ローダミンBという赤色の色素は赤(橙)色の蛍光を出します。この溶液に光を照射します。その際、照射光の波長を330〜700 nm 位まで変えてみます。

(1)照射光の波長を変えても、出てくるローダミンBの蛍
   光はいつも同じ色です(蛍光の光の波長は変わりませ
   ん)。光照射の光エネルギーよりも蛍光の光エネルギ
   ーの方が小さいことを意味しています。
(2)ローダミンB溶液を入れたセルの右側に映る光は溶
   液に吸収されずに通過した励起光の色です。 励起光
   の中心部の色と周辺部の色が違うときがありますが、
   励起光の強度が強すぎるとビデオカメラでは白っぽく
   映ります 。そのときの 励起光の色は周辺部の色がほ
   ぼ 励起光の色になります。
(3) 励起光の波長を変えていくと光を吸収した溶液部分
   からはローダミンBの蛍光が見られます。 励起光を強
   く吸収する波長(およそ500 nm 〜570 nm)では溶液
   (セル)の左側のみが蛍光を出し、そのために 励起光
   は溶液を通り抜けなくなります。このようなときにはセ
   ルの右側に励起光の色が映らなくなります。600 nm
   以上の光を照射するとローダミンBは光を吸収しない
   ために、励起光は全て透過し、蛍光も見られなくなりま
   す。

ローダミンBの蛍光の映像 
では、次にピラニンという色素で同様の実験をしてみましょう。ピラニンは緑色の蛍光を出します。この溶液に光を照射します。その際、照射光の波長を 250〜320 nm 位まで変えてみます。
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さらにフルオレセインという色素とピラニン色素の溶液を入れたセルを並べて 励起光を照射して蛍光を見てみましょう。

フルオレセイン色素が光を吸収しない300 nm 〜 400 nm 付近ではピラニンの蛍光が見られます。一方、フルオレセインが光を吸収する 400 nm からは弱い黄色の蛍光が見られます。450 nm 〜 500 nm までは比較的強いフルオレセインの蛍光を見ることができます。
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◯りん光
上のヤブロンスキー図からわかるように、光を吸収して励起一重項状態になった分子の一部は三重項状態と呼ばれる励起状態へ移ることがあります。三重項状態は励起一重項状態よりは少しエネルギーの低いところにあります。ここから放出する光がりん光と言われるものです。一般に三重項状態は励起一重項状態よりも寿命が長いので、蛍光よりもりん光の方が長く光っています。つまり、 励起光をあてるのを止めると、蛍光はすぐ消えますが、りん光は寿命が長いので、 励起光の照射を止めてもしばらく光っている場合があります。これが、いわゆる残光です。
ここではナフタレンのアルコール溶液を入れたセルを液体窒素に 入れて 77 K に冷却した試料に紫外線を当てています。 シャッターを開けて紫外線を当てるとナフタレンの緑色のりん光を見ることができます。シャッターを切って、 励起光を当てるのを止めても、しばらくりん光が出ているのがわかります。
時々、りん光がゆらいでいますが、試料を入れたセル表面から液体窒素が沸騰して、泡が発生するためです。
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ここではナフタレンのアルコール溶液を入れたセルを液体窒素に漬けて 77 K に冷却した試料に紫外線を当てています。 シャッターを閉じた瞬間の時間を 0 秒とし、 その後のおおよその時間経過を見たのが右の写真です。 シャッターを閉じてもしばらく光っているのがわかります。

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歴史
原理
実験1
実験2
応用
用語
質問




■励起一重項状態
一重項状態のうち基底状態でないエネルギーの高い不安定な状態をいいます

詳しい用語説明は、 用語説明ページを ごらんください。

 

 

 

 

 

 

■ローダミンB
色素の仲間で、赤色の結晶です。

■セル
種々の測定をするときに試料を入れるガラス製や石英製などの容器のことをいいます。

詳しい用語説明は、 用語説明ページを ごらんください。



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■ピラニン
ピラニンの構造式を「用語」項目中の図に示してあります。

■フルオレセイン
フルオレセインは色素の1つです。黄赤色の粉末結晶です。

詳しい用語説明は、 用語説明ページを ごらんください。




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