先端医療では科学の先端分野の成果を使っています。したがって、医療における種々の領域で行われています。たとえば、医療機器の分野、医薬品の分野、再生医療やゲノム医療の分野などです。ここでは主に医療機器に焦点を当てています。先端医療で用いられる代表的な
医療機器としては(1)X線CT (コンピューター断層撮影装置)、(2)MRI (磁気共鳴画像診断装置)、(3)RI (核医学検査装置)、(4)PET (陽電子放射断層撮影装置)などがあります。
X線CTについて。
X線は1895年にレントゲンによって見出されました。このことにより、レントゲンは第1回のノーベル物理学賞を1901年に受賞しています。その後、物体を透過するというX線の特徴を生かしてX線は人体内部を見るための方法として使われるようになりました。しかし、X線撮影では3次元の組織や臓器を2次元の画像で表すために組織や臓器が重なることがあります。これを解決する方法として断層撮影法が研究されてきました。1937年にウィリアム ワトソンは被験者をはさんで置いたX線光源とそれを検出するフィルムを被験者を軸として同期回転する方法を考案しました。1972年に、ハウンスフィールドは人の頭部の断面図を撮影することのできる、現在のCT装置の原型となる装置を製作しました。この功績により、コーマックと共に1979年にはノーベル医学生理学賞を受賞しました。X線CTの画像を再構成するために、オルデンドルフは物体を透過してきた放射線をシンチレーションカウンターで検出し、それをコンピューターで処理することにより画像を得ることに成功しました。1973年には第1世代のCT装置がアメリカのメイヨー クリニックに設置されました。第1世代の装置は直線状に出るX線と2個の検出器で構成されていましたが、1975年には、扇形に出るX線光源と6 - 30個の検出器を用いた第2世代の装置が開発されました。さらに角度の広い扇形のX線束と数100個の検出器をもつ第3世代の装置が作られました。X線源を扇形にして多くの検出器を使うと短い時間で画像を撮影することができます。したがって、第3世代の装置による撮影では1枚の画像がおよそ5秒程度なので、呼吸を止めた状態での画像を得ることができます。その後さらに装置の進歩があり4世代の装置ではさらに高速スキャンや連続スキャンが行えるようになりました。
MRIについて。
ブロッホとパーセルによって1945年にNMR(核磁気共鳴)が見いだされました。彼らは核磁気モーメントに関する研究により1952年にノーベル物理学賞を受賞しました。NMRは水素の原子核などがもつ磁気モーメントを利用した測定方法として、物質の性質を明らかにする手段として広く使われるようになりました。現在でも物理学、化学、生物学などの分野では欠かせない非常に重要な測定手段となっています。ダマディアンはNMRを用いて腫瘍の良性、悪性の鑑別が可能であることを1971年に明らかにしました。これにより、臨床への応用が示唆されたのです。1970年代の後半には人体の映像化が行われました。 MRI では体の中の水分子(の中の水素原子)の様子が、 病気のところとそうでないところで微妙に違うことを 利用して、今ではがんの診断や脳の検査などに広く使われています。
このように MRI は現代医療に必須の装置になってきました。MRI の開発の基礎をつくった ポール・ラウターバーとピーター・マンスフィールドに2003年のノーベル医学生理学賞が 与えられました。
RIについて。
ガンマ線という放射線を出す放射性医薬品を体内に注射し、それが臓器や病変部に取り込まれることにより出す放射線を検出して画像にし体の内部を調べる方法です。日本では薬事法による放射性医薬品の供給が1960年から始まりました。
PETについて。
ポジトロン(陽電子)を放出する同位元素(アイソトープ)を含むブドウ糖を注射すると、それが癌組織に多く取り込まれるため、同位元素からでるポジトロンを検出して画像として体内の様子を調べることができます。日本では1993年から高度先進医療として一部医療機関で実施されています。 |