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(2)MRI (磁気共鳴画像診断法)
MRI は水素の原子核がもっている磁気モーメントを利用した方法です。原子核の磁気モーメントは磁石と考えることができます。始めに磁気共鳴について考えてみましょう。

   
左図は磁場の中に置かれた磁石と磁場との関係を示しています。 上の図のように磁石が置かれていると磁場がないときよりも、エネルギーは低く安定になります。一方、下の図では磁場がないときよりもエネルギーは高くなります。したがって、磁石がこのような配置をとるときはエネルギー的に不安定になります。

地上で方角を知るために方位磁石を使いますが、地球の磁場の中で自由に動ける方位磁石がエネルギーの安定な左図の上の図のような配向になることを利用して、南北の方角を知ることができることを利用しています。

磁気モーメントを考えると、水素原子の原子核は磁石と見ることができます。水素原子に磁場をかけていくと、右図のように磁石の向きによって、エネルギーの安定な状態と不安定な状態ができます。その2つの状態のエネルギーの差は右図のように、磁場の強さが強くなると、次第に大きくなります。
今、水素原子核に周波数 一定(エネルギー一定)のラジオ波を当てたまま、磁場の強さをゼロから強くしていくと、磁場による磁石の配向によるエネルギーの差の

大きさが丁度ラジオ波のエネルギーに等しくなると、エネルギーの低い状態の水素原子核がラジオ波を吸収してエネルギーの高い状態へ移ります。このラジオ波の吸収を検出すると、核磁気共鳴のシグナルを得ることができます。それが、上図の下に描かれた緑色のスペクトルに対応します。このような現象を磁気共鳴といいます。



一定の周波数(一定のエネルギーをもった)のラジオ波がある強さの静磁場の中に置かれた水素原子核にあたると核磁気共鳴が起こることがおわかりになったと思います。
MRI ではある断面での核磁気共鳴のシグナルを検出しなければなりません。そのためには、一定の強さではなく、直線的に強さが変わる静磁場(傾斜磁場)を用います。傾斜磁場の中に


水素原子核があるときにラジオ波を照射すると、左図からわかるように、場所によって磁場の強さが変わるために、核磁気共鳴の起こる場所が断層的になります。つまり、傾斜磁場に対して垂直なある面でのみシグナルが観測されることになります。 このため、ある断層面での水素原子核の様子を画像として見ることができます。

断面内での水素原子核の位置は上図の傾斜磁場に垂直に瞬間的に傾斜磁場をかけて、シグナルを検出することにより得ることができます。




実際の MRI では緩和現象を利用してシグナルを得ています。静磁場中の水素原子核に瞬間的にラジオ波をあてると、ラジオ波は電磁波なので水素原子核の磁気モーメントを静磁場に対して90度の向きに倒すことができます。これを90度パルスといいます。水素原子核は静磁場中に置かれていますので、磁気モーメントは静磁場に平行になってエネルギー的に安定な状態へ移ろうとします。その様子を検出するのです。このような緩和現象を縦緩和(T1 緩和)といいます。安定な状態へ戻る T1 緩和の時間(シグナル強度が 1/e になる時間です(e はネピア数です))を T1 緩和時間といいますが、この緩和時間は水素の置かれている廻りの環境で異なります。
MRI では、水分子中の水素からのシグナルを観測しています。一般的に、水を含んでいる組織の違いや病変部などで T1 緩和時間が異なります。通常、脂質の多い組織は比較的短い T1 緩和時間を示し、炎症を起こしたりしている組織は長い T1 緩和時間を示します。このような違いがありますので、これを画像として作成して見ることにより、診断に使うことができます。


 
歴史
原理1
原理2
原理3
応用
用語
質問




■原子核
原子は正の電荷をもつ原子核と負の電荷をもつ電子からできています。

■磁気モーメント
磁気双極子の強さを表す量をいいます。

■周波数
振動数のことをこのようにいうこともあります。

■磁気モーメント
磁気双極子の強さを表す量をいいます。

■ラジオ波
核磁気共鳴の起こるエネルギーはちょうどラジオの電波がもつエネルギーと同程度なので、静磁場で分裂した状態の間でのエネルギーの吸収(共鳴)にラジオ波が使われます。

■スペクトル
振動・波動現象においてある物理量を波長などの関数としてあらわしたものをいいます。

詳しい用語説明は、 用語説明ページを ごらんください。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■緩和現象
平衡状態にある系に外から力などを加えて平衡からずらし、力を除くとまたもとの平衡状態へ戻ろうとします。


詳しい用語説明は、 用語説明ページを ごらんください。