酸と塩基 本文へジャンプ
中和


中和反応

酸と塩基が反応して、お互いの性質を打ち消しあうことを中和といいます。塩酸と水酸化ナトリウム水溶液は次式のように反応して、塩化ナトリウムと水を生じ、塩酸と水酸化ナトリウムの性質はなくなります。
   HCl + NaOH -> NaCl + H2O
水溶液中では、塩酸と水酸化ナトリウムはそれぞれ電離してイオンとして存在しています。そこで、イオンの形で上の式を書き直すと次のようになります。
   H+ + Cl- + Na+ + OH- -> Na+ + Cl- + H2O
矢印の左右にある同じ物質(イオン)を消去すると次式になります。
   H+ + OH- -> H2O
このようなイオンについての反応式をイオン反応式といいます。

中和では、酸から生じるH+と塩基から生じるOH-が結合して水を生成する反応といえます。

2価の硫酸と水酸化ナトリウムでは、中和反応は次のようになります。
   H2SO4 + 2NaOH -> Na2SO4 + 2H2O
H2SO4 1 mol はH+ 2 mol を生じるので、NaOH 2 mol と過不足なく反応することができます。

上に示した2つの中和反応で、酸の陰イオン(Cl-やSO42-など)と塩基の陽イオン(Na+など)が結合した化合物(この例では、NaCl と Na2SO4)を(エン)といいます。

中和滴定

酸(あるいは塩基)の濃度がわかっていれば、中和に要した溶液の体積の測定から、濃度がわかっていない塩基(あるいは酸)の濃度を求めることができます。このような操作を中和滴定といいます。

次のページには0.01 mol/Lの塩酸20 mLを0.01 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定している様子を写しています。
           滴定

滴定曲線

中和滴定において、加えた酸(あるいは塩基)の水溶液の体積と水溶液のpHとの関係を表した図を滴定曲線といいます。また、中和反応が終わる点を中和点といい、中和点付近ではpHは激しく変化します。中和点を知るためには、中和点の付近で色の変わる色素を使います。このような色素を指示薬(pH指示薬)といい、メチルオレンジやフェノールフタレインなどがよく使われます。

右上の図で示した黄色の帯の部分(pH)が指示薬の色の変化するpH領域です。これを指示薬の変色域といいます。フェノールフタレインではおよそ8〜10、メチルオレンジではおよそ3〜4.4です。

右上の図は0.1 mol/Lの塩酸を0.1 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定したときの滴定曲線を表しています。この場合、指示薬としてメチルオレンジ、フェノールフタレインとも用いることができます。

中和反応の量的関係

酸と塩基が過不足なく反応して中和するためには、酸のH+と塩基のOH-の物質量が同じでないといけません。このとき、酸と塩基の価数も考慮する必要があります。
たとえば、1価の酸であるHClと1価の塩基であるNaOHの中和反応を考えてみましょう。HCl 1 molをちょうど中和するのに必要なNaOH は1 molです。ところが2価の酸であるH2SO 1 molとNaOHの中和反応では、NaOHは2 mol必要となります。
したがって、次式が成り立ちます。
   酸の価数 x 酸の物質量 = 塩基の価数 x 塩基の物質量
濃度c mol/Lのn価の酸V mLを中和するのに濃度c' mol/Lのn'価の塩基V' mLを要したとすると、次式が成り立ちます。
     ncV = n'c'V'
この関係式から酸または塩基のうち、どちらかの濃度が既知であれば、他方の濃度を求めることができます。これが、中和滴定の原理です。
滴定曲線

メチルオレンジ

フェノールフタレイン

指示薬ではありませんが、自然界に存在する植物などに含まれている色素も酸性や塩基性の強さによって色が変化します。花の色は通常1つの色素だけではなく、何種類もの色素の色が組み合わさって目で見える色ができています。
ここでは、赤キャベツ(紫キャベツともいいます)の葉から抽出した色素のpHによる色の変化を見てみましょう。

                     メチルオレンジ

塩の加水分解

酸と塩基の中和反応によって生じる塩の水溶液は中性のものが多いのですが、酸性や塩基性を示す場合があります。塩を水に溶かすと、電離して生じたイオンが水と反応して、水溶液が酸性または塩基性を示すことがあります。これを塩の加水分解といいます。
たとえば、酢酸ナトリウム CH3COONaを水に溶かすと、電離して
CH3COO-とNa+が生じます。
   CH3COONa -> CH3COO- + Na+
酢酸は弱酸で電離度が小さいため、生じたCH3COO-は水と反応して酢酸CH3COOHになります。
   CH3COO- + H2O -> CH3COOH + OH-
その結果、OH-濃度が高くなり、水溶液は塩基性となります。
このように、弱酸と強塩基から生じた塩の水溶液は塩基性を示します。

一方、塩化アンモニウム NH4Cl のように強酸と弱塩基から生じた塩は酸性を示します。
塩化アンモニウムでは
   NH4Cl -> NH4+ + Cl-
   NH4+ + H2O -> NH3 + H3O+
この結果、H3O+の濃度が高くなり、水溶液は弱酸性となります。

強酸と強塩基の中和によって生じた塩は中性を示します。その例としてはHClとNaOHの中和によって生じたNaClがあります。   

酸性塩と塩基性塩

2価の塩を1価の塩基で中和するとき、加える塩基の量によって、2種類の塩が生成します。
2価の酸として硫酸を、1価の塩基として水酸化カリウムを考えてみましょう。
    H2SO4 + KOH -> KHSO4 + H2O
この反応で生成した硫酸水素カリウムKHSO4には、H+が含まれています。つまり、塩基と反応して中和できるH+があります。このような塩を酸性塩といいます。
一方、次式で示す反応で生じる塩K2SO4にはH+もOH-も含まれていません。
    H2SO4 + 2KOH -> K2SO4 + 2H2O
このような塩は正塩といわれます。
また、塩化水酸化マグネシウムMgCl(OH)には酸と中和反応をおこすことのできるOH-が含まれています。このような塩を塩基性塩といいます。